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【感想】軍師①

M文庫の新刊への感想。
良いところはあんまりないバッシング記事です。

設定

①主人公の特殊能力について

 『さまざまな不可視な情報』の範囲が分からない。まぁ日本語的にも気になるけど。
 天秤の方でも思いましたが、マンチキンな人種(ルールの裏を取ろうとする人)には、この手の便利アイテムは非常に引っかかります。

 時間軸はどうなのか。ステータスは見えるのに人間の内面は見えないのか。今、この時点の目に見える範囲の情報と見えない範囲で得られる情報はどこで区切られるのか。現在の戦況で最適な布陣とかは表示されるのか。敵が意識している部分と、無意識の部分などは分かるのか。群体のモチベーションなどは見えるのか。この世界の戦術は見えないのか。敵の選ぶ戦術がそこから照らし合わせないのか。

 作者さんは、この装置に関して「便利な時だけ出てくる舞台装置」として認識しているんだろうけど、もっとこの能力の描写を増やして、「主人公がこの能力に頼っている」ところを見せてはどうでしょうか。
 例えば、ソフィアが初めて出てくるシーン。騎乗が得意な兵士を探すシーン。防城戦のシーン。城に乗り込んで通路で戦うシーン。
 そしてそれらに共通で、主人公が見ているスクリーンの映像を、『はがない』みたいにバッと割り込ませてしまえばもっと良い。二人分並べて、「あ、こいつは使えるけどこいつは馬が怖いのか」とかやれば、主人公の能力がもっと映えるでしょう。

 その辺りの細かい設定がないので、主人公の取る行動がお粗末に思える。少なくとも、読者がスラスラと片手で数えられない数の穴を思いつく時点で、説明不足。
 また、ステータスが見えるのなら、フォントとしてそれを表現するとか出来たのでは?と思う。基準もフラフラしているので、単純な比較だけで数字の大きさのインパクトが伝わらない。

②主人公の性格

 主人公が、相手の感情とか考えずに意味不明なちょっかいを出して女性の好感度を上げてるんですが、これは『人の気持ちが分からない』からやってるのか、単純に作者の会話の書き方が下手くそなのか、どちらなんでしょうか。
 少なくとも、悪感情を覚えさせる会話をしたのに好感度が上がるのは、普通のコミュニケーション能力をもった読者にとっては理解できない進み方です。
 『主人公は相手の気持ちを理解するのが下手くそなので、会話で悪感情を植え付けてしまう』けれど『特殊能力を使ってうまく事態を好転させることで好感度を稼ぐ』という話の進め方なら納得できるんですが。

 こういうご都合主義的な話の流れの中で、人間が普通抱かない感情の描写をされてしまうと『キャラが薄いなぁ』と思ってしまいます。
 主人公は他人の気持ちが分からなくていいけど、作者は読者の気持ちを理解して下さい。

③地理構造

 騎兵で四時間の位置に砦を二つも立てて、しかもそこで睨み合うのに開戦してないってのは、凄いですね。
 国の南方の領地と、主城がどこにあるのか、またアルビオンからの通行路がどうなっていて、主城へたどり着くルートがどうなっているのか。
 その辺りがまったく見えないので、進軍している感覚がまったくない。
 戦記モノなので、そういう地理構造って凄い大事だと思うんですね。防城戦をやるだけで、軍隊の配置とか、考えてないんでしょうか。
 スパロボみたいな戦術ゲームだけじゃなくって、HoI2とか三国志みたいな戦略ゲームもやってみると良いですよ。

 ついでに、大陸の最南端にある国なのに、その更に最南端の領地から国の首都に向かう途中に、『国の最大の砦』がある理屈が分かりません。一体何から何を守るための砦なんですか。
 しかもすぐ側の、山だか森だかの中に砦があるんでしょ?なんで平地に三重の壁をもった砦を作るんですか。それって難攻不落じゃなくって誰も攻めなかったんじゃないの?
 現在の国の構造を考えるのなら、首都の北側、それも国境付近にあるのが普通でしょう。
 口絵を見ると、北東に繋がってるか繋がってないか分かりませんが、大陸が一個あります。この南東側の大陸全体が昔一つの国だったとして、その当時の名残なんでしょうか。それこそ主人公の特殊能力で、パッと見せてください。

 っていうかいきなりDIOは主城に行っちゃったんでしょ。兵士を小分けにして大軍を城に送り込んだりとか、準備してくださいよ。諸侯がそこに集結するとか。

④風の魔法で会話を盗み聞き。そして現代人であることの活用

 これはつまり、発声による音波を魔法で操作したってこと?
 ということは、振動する物質を操作することが出来る?と、『現代人が異世界転生』なら思うでしょう。主人公は大学生ですから、私立大学の文系に入学するなら理科の勉強はしていないかもしれませんが、物理・化学のどちらかは選択して授業を受けているはずです。これぐらいの機転は利かせて欲しい。

 で、あればですよ。城の中からの声を増幅したり、吸う空気を操作して敵を殺すことも可能なのだろうか。
 そういうことを「主人公が思いつかない」のであれば、現代人である意味は、あるんでしょうか?
 現状では、同世界人が特殊能力を得たのと変わらないです。『現代人トリップもの』という記号だけをなろう受けのために選んだとしても、その設定を生かすように書く事はできるはずです。
 主人公が高校生ではなく大学生であったのなら、振動云々はともかくとしても、もうちょっとバックボーンを練って、活かしましょう。

描写

⑤戦闘描写が弱い
 主人公が弱いことは分かっているので、主人公に戦えという意味ではないです。
 個人戦闘も、戦争も、戦闘の描写が軽すぎる。せっかく命のやりとりをしているのに、息苦しさが全く無い。
 防城戦で、敵の攻撃から城を守る描写(魔法の説明描写ではなく、それを食らって怪我をする兵士。死んでいく兵士。血、煙、怒声、悲鳴、汗、涙、そういった諸々の"生々しさ")。

 それが無い理由が、主人公の特殊能力で超々効率的な防御線を構築できたから、だとしましょう。
 だったら、それを書いて下さい。 
 そして、それが特殊能力に起因するものだと、描写して下さい。
 戦場の情報(味方の戦力、内面、道具、戦術、同じく敵のそれら、今の狙い、異世界の常識、日本の常識)を『能力で知った上での最適解を出す』ことは出来ないのだろうか。
 であるならば、主人公はとかく軍師としての才能があったことになりますよね。何のための特殊能力なんでしょうか。舞台説明の為だけのものなんでしょうか。非常にもったいない。

 特殊能力と関係ない才能で、特に描写もないので、何が主人公の得意分野で、作品が戦記なのかファンタジーなのか、何を軸に活躍していくのかが分からない。
 軍師というからには戦争、戦記なんだと思うけど、もうちょっと中身のある戦争をしてほしい。

⑥ヒロイン

 ちょろインばかりなのはラノベの宿命なので置いておくが、「籠の鳥だったから、自由がうらやましい!」とか、キャラ付が安易すぎます。主人公がソフィアの事を「彼女もただの女の子なんだ」って解釈してますけど、90年代のラブコメじゃないんですから、もうちょっと捻りましょう。
 ゆっくり好感度を上げてほしかったというか、主人公が女の子を「おちょくって好感度稼ぐ」っていうのは、なんなんでしょう。こっちのほうがよっぽど異能なんですが。

⑦伏線が欲しい

 ソフィアの身を黒幕の魔手から守っていたのは扇なんですよね。
 だったら、その扇を、事前に出しておいて下さい。主人公に怒って吹き飛ばすシーンでもいい(というか、あのシーンはどうやって吹き飛ばしたか見せるべき。魔法を使うなら魔法を使う描写をあそこで出しても良いし、そうでないならなおさら扇で吹き飛ばすべき)。
 事前に出ていて大事にしている扇をもらうから、ソフィアの好感度が分かるんでしょうに。
 なろうで順次更新していたなら、後から生えた設定に伏線を貼れないのは分かります。でも、書籍化ですよ。改めて伏線貼ってくださいよ。

その他

⑧絵はモンスター文庫3冊の中で一番良かった。

 Twitter上でモロ知人なので「よいしょ」かと思われるかもしれませんが、天秤と宝くじと比較しても、段違いで軍師の絵が素敵でした。
 背景とかまでしっかりと書き込んであるところがまず素晴らしい。天秤は背景とか全然無かったし、主人公が走るときに両腕を後ろに振り抜いてたし、絵の前に構図がおかしかった。宝くじは話に盛り上がりがないから風景と骸骨、初登場で顔を出してるだけなのでなんとも、でしたが……。
 一個だけ思ったのは、口絵のお姉さんが"洗脳状態"であることが分かるような絵だと良かった、ということでしょうか。凛としているお姉さんと、洗脳状態の曖昧なお姉さんは、一声聞くだけで違いが分かるほど別人でした。わかりやすい記号だとレイプ目とかですかね。

【まとめると】
1.「軍師は何でも知っている」わけじゃなく「何でも調べられる」ことを見せてください。
2.戦争も個人戦闘も、戦いの動きをもっと書け。アクションシーンを書け。